2013年03月07日

オススメ・トリビューン「皇都に吹く西風」

ザザーグ

「アドゥリン……か。どうにもきなクセえな。」
ザザーグは、冬の気配が緩み始めたアルザビ上空を見つめる目を、遥か西の果てへと巡らせる。


――神聖アドゥリン都市同盟。アトルガンに渡る前から、知ってはいた名前だ。
水晶大戦時には、アドゥリンからの寡兵が中の国まで駆けつけていたのを記憶している。
「沈黙の大国」と呼ばれた皇国に比べれば、中の国、特にサンドリアとの交流は盛んだったはずだ。

だが大戦のさなかに、交易の玄関口だったタブナジアは滅びた。
その後は航路もろくに確保できず、人々の頭からアドゥリンの記憶も薄れていった。

とはいえ、昨今では冒険者の手でタブナジアの生き残りが発見されたと聞く。
利益にめざといジュノも、タブナジアの復興に手を貸している。
再び交易を開始したタブナジアやジュノを通して、アドゥリンの情報が皇国に届いても
不思議なことではなかっただろう。

しかし、久々に「アドゥリン」の名を聞くきっかけとなった情報源は、
タブナジアやジュノを通じての話でも、皇国の情報網でもない。
アルザビの防衛戦を共にする冒険者から、
忘れかけていたアドゥリンの名を突然聞いたのだ。

何でも「磁場の調査」と称して、中の国のそこかしこを嗅ぎ回っては
冒険者を利用しているという。

国家が――アドゥリンは国じゃなく都市同盟とやららしいが――
冒険者を使って怪しい動きをとる……
その裏には、何かが蠢いている。


かつての、この皇国もそうだった。
大戦が終わりアトルガンに渡って以降、常に蛮族との戦いに明け暮れてはきたが――

 聖皇の失踪、宰相の陰謀、不滅隊の暗躍、亡国イフラマドの影、機関巨人と黒き神

――これほど胡散臭い事件が立て続けに起きたことは、かつてなかった。
そして、どの事件にも冒険者の介入があった形跡が見てとれる。

そして今、またもや冒険者が「アドゥリン」という国家に関わり、
事を動かそうとしている。
あるいは、国家に利用されようとしている。


「何かが起こる、前ぶれだ。」

中の国を挟んで東西に離れたアトルガンには、大した影響はないかもしれない。
だがバストゥークは……水晶大戦を守り抜いた、かの故郷はどうだ。

(アイアンイーターの野郎が現役なら、そう心配することはねえだろうが…。)


と目線を下げたその時、アルザビに警報が鳴り響いた。

 警戒警報! マムージャ蕃国軍、 バルラーン絶対防衛ラインを突破!!
 なおも、皇都に向けて進撃中! 全都市、第一級戒厳令発令! 繰り返す……

「っといけねえ、考え事をしてる場合じゃなかったな。さあて、教育の時間だ!」

皇国兵や義勇兵、冒険者を引き連れ戦線に立ち、
群がるマムージャ兵に拳を繰り出す。
だが、援護に加わってくる冒険者たちが目に入ると
心の片隅に残るざわめきを抑えきれない。

(神聖アドゥリン都市同盟……やはり何か匂う。)

だが一方で、自分が背中を預けたこの冒険者たちなら、
例え良からぬ陰謀が根を張りつつあったとしても
そうやすやすと国を明け渡すことには、ならないだろうという信頼もある。

近ごろの冒険者の成長は目覚しい。
最初は蛮族にまとめて薙ぎ払われていた者たちが
今では、徒党を組んで襲ってきた蛮族をあしらう程になった。

彼らにとっては、活躍できる場所であれば西も東も関係ない。
冒険者と事件はつきものだ。心配など、無駄な老婆心なのかもしれない。

「俺も歳とっちまったってことか?ガハハ!」

ともかく土蛇将たる今の自分には、皇国を護ることしかできぬ。
熱く猛った拳を叩き込めば、少しは迷いも晴れるというものだ。

様々な思いを巡らせながら、ザザーグは皇都防衛の任に当たる。

「チェスト〜ッ!!」

冒険者たちの頭上、アルザビを空高く吹き抜ける西風は、激しさを増していた。

ザザーグ
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